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のビラビ衆見習い


間夫(恋人)の写真を見つめる雪華の頬を、はらはらと零れてゆくものがあった。これまで、間夫の代わりにささめを守る為、隠してきた秘密の重い枷がやっと取れた、安堵の涙だったかもしれない。
いつか、出征の時に記念にと、料亭の一室で写真師に撮らせた……雪華と光尋が共に並んだ写真だった。雪華花魁も、同じものを肌身離さず大切に持っていた。

「ああ……御懐かしい……光尋様。凛々しくてお勇ましくてお優しい、わっちのただ一人の真の間夫でありんした。お傍に居ることも叶わぬ卑しき身の上なれど、わっちには生涯ただ一度、本気の恋でありんした。勿体無い……光尋様はわっちの事を、こんなにも思っていて下すったのだね。」

「あい。光尋お兄さまは、お見舞に行った時にもわたしの大切な雪華……と何度もおっしゃいました。……三途の渡しでも、同じように。」

「そうかい……うれしいねぇ。菩提はわっちがきちんと弔って、月命日には御膳を供えている。三年の法要も済ませたよ。ただね……ささめ。可哀そうだが墓参りは現に帰ってのことだよ。御位牌はわっちの部屋にお祀りしてあるから、後でおいでなんし。」

「あい。わかっておりんす。ささめは借金のある身ですから、年季が明けるまで大江戸からは出られません。お世話になった花菱楼のお父さんや雪華兄さんのお顔に泥を塗らないように、今日よりきちんと励んで参りんす。」

目許を華やかに染めた細雪は、今日からは花菱楼の二枚看板となる。
衣擦れの音をさせて、しずしずと登楼してくる澄川を待つために部屋へ急ぐ細雪は、凛とした横顔を見せていた。
見送る雪華が思わず口にした。
共に禿だった六花は、本来なら現に帰れるが、今は男となり様々な雑用をこなしている。どうしてもささめの傍にいたいと言い張って、見習いが終わっても基尋の年季が明けるまで本名の浅黄として花菱楼で働いていた。

細雪花魁。澄川さまがお越しになりました。」

「あい。ありがとうございんす。お待ち申しておりんした。」

細雪はやっと伸びてきた前髪を上げ銀ラを差した、初々しい姿だった。自分で鏡を覗いて、公家の姫君だった母や姉に似ていると思う。

「待たせたかい?」

掛けてきた澄川の声に、細雪はふっと綻んだ。

「あい。下で誰かの声がするたびに、澄川さまではないだろうかと思いんして、鶴のように首を長くして、お待ち申しておりんした。胸がとくとくと弾んでおりんす。」

「可愛いねぇ、細雪。まるで吉徳大光の雛人形のようだよ。さなぎの羽化を見るようだね。」

雪華花魁の酒席に侍って、丸い花簪(はなかんざし)を桃割れの髪に挿した禿が、見違えるような姿になったのを澄川は喜んだ。