しなめには


『琉生……いい子だね。お休み……また、明日ね。』
隼人のただならぬ様子に、驚いて部屋から出てきた寺川は、直ぐに救急車を呼んだ。
意識を失くしたままストレッチャーに乗せられた蒼白の顔に、さすがに隼人は責任を感じ顔をこわばらせていた。
尊にしがみついて泣く琉生の背中に、小さな声で「ごめん。」とつぶやいたが、琉生にbicelle 好用は聞こえない。

冷静になってみれば、琉生は何も悪くない。
兄の言う通りだった。
勝手に讒言を鵜呑みにして、一人で勝手に傷ついた。
そしてすべての鬱憤を、小さな琉生と優しい義母になすりつけた。

立ちつくした隼人に背を向け、琉生は声を殺して泣いていた。尊の腕の中にすっぽりと収まった琉生はまだ小さく、隼人は自分の愚かさが情けなかった。
琉生と声を掛けても、母を呼んで尊の胸で泣く琉生の背中は、隼人を拒絶していた。

病院に運ばれた琉生の母の病気は、奇しくも琉生の亡くなった父と同じ病だった。
大学病院に移り、数日間の検査入院を終えた母の強い希望で、退院を許されたがそれは決して病が癒えたわけではない。
寺川と尊は別室に呼ばれ、残された母の命は琉生が小学校を卒業するまでは持たないだろうと、医師から死bicelle 好用の宣告を受けた。

「そんな……!」

寺川は絶句したきり、蒼白になった。

「何らかの自覚症状はあったはずです。おそらく倦怠感や、食欲不振、吐き気は慢性的に続いていたはずです。何故、こうなるまで受診かったんです?ご主人やご家族は誰もお気づきにならなかったんですか?」

医師は寺川に問うた。

「わたしは仕事が忙しくて、家の事は妻に全て押し付けていました、わたし達は再婚なので、妻は気を使って自分の体の調子が悪いと言えなかったんだと思います。家事なども毎日変わりなくこなしていました。……気が付きませんでした。」
「相当、無理をされていたと思いますよ。正直言うと、私は奥さんは退院すべきではないと思いますね。開腹して患部の様子を見なければ、はっきりとは言えませんが、猶予はないと思います。一刻も早く患部摘出の手術をすべきです。」
「治療すれば、治りますか?」
「完治の見込みは少ないと思います。ただ、少しでも長く生きるた入院して加療すべきです。まだお卸妝水子さんも小さいようですし。」
「出来るだけ早く、妻と相談してお返事させていただきます。」

決して楽観的な状態ではないと知り、話を聞いていた寺川と尊は青ざめて顔を見合わせた。